春が大好きっトップFate/stay night ファンページFateSSページ>「届いた心」6


「ふーん、言うだけあってやるわね、彼」

「はい、かなりの修練を積んでいます。無論人間レベルの話ですが……」

「だわね。 士郎も人がいいから付き合っちゃって、まぁ」





俺は雨あられのように剣戟をお見舞いしていた。

右上段から左胴。体勢を崩させておいて小手面のコンビネーション。
気合一閃の面上段から、渾身の抜き胴。

いずれも避けられた事などない必殺の連携技だ。

……なぜ! なんで当たらない!?

これだけの連続攻撃を繰り出しても、エミヤシロウは全ての攻撃を苦もなく避ける。

隙はある。
ヤツの無駄のない構えから、僅かにチラチラと覗く小さな隙。

その隙を見逃す俺じゃない。

が、全ての攻撃が吸い込まれるかのように紙一重で避けられてしまう。

スピードか?コンビネーションか? 威力か? 一体何が足りない!

徐々に敗北感に塗りつぶされる自らの心に渇を入れて俺は攻め続ける。

気力の揺らぎは体力を奪い、いつしか俺は肩で息をしていた。

……はあはぁ、ま、負けない。お、俺は負けるわけにはいかないんだ!


「どうした、お前の決意はその程度か? それじゃあ桜は任せる事は出来ないぞ」


言うや否や、エミヤシロウは初めて自分から攻撃を仕掛けてきた。

何の小細工もない面一閃。

ただ、その速さだけが異常だった。

上段の構えから、ただまっすぐ振り下ろしただけの素直な剣筋、しかし、俺は反応すら出来ず無様に脳天に喰らってしまった。
防具のないこの戦い……、一撃でもまともに喰らえば勝負はそこで終わりとなる。


薄れいく意識の中で真っ先に思い浮かんだのは彼女の笑顔だった。

間桐の笑顔を守る事、出来なかったな…。

アイツの笑顔を見るのが好きだった。
だからそれを壊すヤツを許せなかった。

例え、それが間桐に笑顔を取り戻してくれたエミヤシロウ本人だとしても。

このままエミヤシロウが卒業してしまえば、きっと間桐は笑わなくなる。

それだけは許せなかった。

ギリっ。
歯も砕けよとばかりに奥歯をかみ締める。

目を見開け!歯を食いしばれ! 目の前のアイツを倒さなければ、間桐の笑顔を守る事は出来ないんだぞ。

倒れるわけにはいかない。
意識を失うわけにはいかない。

その思い一つで、俺は意識を失う事だけは何とか拒否できた。

片膝をついた状態でこらえた後、即座に立ち上がる。

頭がふらつく、耳の奥からキーンと音が鳴り響いている。それでも俺はまだ立っている。

「俺は―――まだ、立って、いますよ。倒されなければ、負けじゃない、はず…」

虚勢を張っていなければ今すぐにでも片膝をついてしまうほどのダメージ。
防具で守られていない竹刀の一撃はこれほどの衝撃を与えるのか―――?

だが俺はまだ負けてない。意識さえ失わなければチャンスはきっとある。

俺は竹刀を手前に引いて構え、ヤツの剣戟に備えた守りの構えを取った。

―――悔しいが、今の俺ではヤツに剣を浴びせることは不可能だ。

だが、俺は負けない。負けるわけにはいかない。

頭部を打たれて意識を刈り取られる事だけは避けるんだ。
体の痛みならいくらだって耐えられる。

俺の心が折れるまで……勝負だ、エミヤシロウ!










剣筋なんかまるで見えちゃいなかった。

俺はエミヤシロウに攻められっぱなしで耐え続けていた。

ヤツの剣はとにかく速くて、”来る”と思った瞬間にはもう俺の体に届いている。
俺は急所だけを守るのが精一杯で、腕や肩、胸などは既にヤツの剣戟で傷だらけになっていた。

無尽蔵のスタミナで剣を浴びせ続けるエミヤシロウ。
それを受けているだけで俺のスタミナは徐々に削られていく。

剣を握る手に力がはいらない。
体を支える足は既に前に動かない。
朦朧とする意識。

あれ? 俺は何でこんな辛い事に耐えているんだ?

なにか大切なものを守らなければならなかったような……?

なんだっけ?

集中が途切れたその心の隙間を縫って、エミヤの逆胴が俺の脇腹に突き刺さった。

―――もう痛いとか痛くないとかも分からなかった。

倒れちゃえば楽になるんだろうな……。

そう思った瞬間、俺と敵の間に一人の少女が飛び込んできた。


「もうやめてください先輩っ!
この人、もう意識がありません!これ以上こんな事を続けても! 続けても……」

「だが、まだコイツは倒れていない。
倒れるまで負けじゃない、と言ったのはコイツの方だ」

「で、でも……」


初めて、剣戟が、止まった―――!

目の前にいるのは間桐。

俺が守ると決めた少女の笑顔。

その奥には倒すべき敵。

諦めちゃ……ダメだろがっ!


俺は目の前に立ちふさがる少女の横をすり抜け、隙を見せている敵に斬りかかった。
もう剣筋も構えも関係ない。握った剣を真正面から力いっぱい振り下ろすだけの正直な一撃。


「お前が間桐をっ!!」


敵は初めて避けきれずに竹刀で受け止めた。
俺は相手の竹刀ごとぶった切るつもりで最後の力を込めたのだが、それでもエミヤシロウには通用しなかった。


「お前…まだこんな力が残ってるのか…?」

いや、俺にはもう一片たりとも力なんか残っちゃいないさ。
ただ…。

「守る」

「何を?」

「守る」

「だから何を?」

「間桐の…笑顔を……守る」

目の前には敵がいる。
倒さなければ守れないのなら、倒すしかないだろ!

「桜、下がれ」

「せ、先輩! で、でも!」

「コイツがこんなになってまで立っているのはお前のためだ。
なら、お前は最後までこの戦いを見る義務がある」


「……はい」

視界から間桐が消えた。

正直ありがたい。今の俺は意識が朦朧としていて、間桐さえも斬って捨ててしまいそうだった。

「すまなかったな。正直お前の事を舐めていた。
ちょっと痛い目に遭わせればすぐに逃げ出すと思っていたよ」

目の前の敵がなんか言ってる…。
よく聞こえないけど、来るなら来い。俺は最後まで立ち続けるだけだ…。

「本気の相手には本気で。
悪いが次の一撃で意識を刈り取らせてもらう」

目の前の敵が再び構えを取った…。
よく見えないけど、来るなら来い。俺は間桐の笑顔を守るだけだ…。

「行くぞっ!」

そう、声が聞こえた瞬間、目の前の敵は俺の視界から消え去った。

”き、消えたっ!?”

次の瞬間、全く無防備の左側面から脳天に衝撃を受けた。


つ、強すぎる……。

この人には勝てない。

勝てないけど、

ま、守りた……か…った。

俺の心が折れゆくのと同時に、俺の意識も闇の中に沈んでいった。

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