>春が大好きっトップ>Fate/stay night ファンページ>FateSSページ>「届いた心」3
「ね、士郎。今から新都に買い物に行くから付き合ってよ」
HRも終わり、皆が帰り支度を進める中、遠坂は俺の席までやって来て唐突に言った。
「新都? 何か買いたいものでもあるのか?」
「ん〜、あると言えばあるし、ないと言えばないような……」
「なんだそりゃ?」
「いいじゃない、付き合うぐらい。どうせ暇なんでしょ? 」
まぁ暇なのは確かだし、最近は遠坂と二人で出かけた記憶もない。
どうせ桜も藤ねえも部活で遅くなるだろうし……。
「わかった。
でもセイバーが家で待ってるから余り遅くまではダメだぞ」
「ええ、分かってるわ。夕食までには帰らないとね。
なら善は急げよ、時間が余りないから早く行きましょう」
遠坂はそう言うが早いか、俺の腕をグイグイと引っ張る。
「わかった、わかった。だからちょっと待て」
俺は必要そうな教科書を適当にカバンに押し込み、遠坂に倣って立ち上がった。
そして、近くの席に座っていた美綴に向かって声をかけた。
「じゃあな美綴。また明日」
「バイバイ綾子。
ん?……アンタなんでそんなにニヤニヤしてんのよ!」
遠坂の指摘どおり、後ろの席では美綴がニヤニヤとこちらを眺めていた。
「別にぃ。青春してるなぁって思ってさ。
あの鉄の女と言われた遠坂も普通の女の子だったんだねぇ」
「せ、青春してたら悪いかしら?
綾子も羨ましかったら早くいい人を見つければいいんだわ」
と言うや否や、遠坂は俺の腕を掴み、教室の出口へと向かった。
そして、出口で教室に戻ってきた一成とばったり会った。
「おお、衛宮。ちょうどいい所で会った。
今日この後空いているか? 暇ならちょっと手伝ってもらいたい事が……」
「ご生憎さま。士郎はこれから私と出かけるの。頼みごとならまた明日にして頂戴ね、一成」
遠坂は俺を呼び止めた一成に返事すらさせず、そのまま下駄箱まで突っ切った。
無論俺の手は掴んだままで。
足早に下駄箱まで辿り着くと、遠坂はようやく一呼吸して俺の手を離した。
「ふぅ、全くあの二人にも困ったものね。
わたし達をからかう事を楽しみにしているんだから油断できたもんじゃないわ」
遠坂よ。美綴はともかく、一成はただ頼みごとがあっただけなんじゃ……?
「さ、士郎。早く行きましょ。ただでさえ時間がないんだから」
そう言うと遠坂は乱暴に下駄箱を開けて靴を取り出そうとした。
「あら?」
ハラリと音もなく揺れ落ちる白い物体。
手紙……?
遠坂はその白い物体を拾い上げると、ピラピラと確認した。
「今頃わたしにラブレターなんていい度胸してるわねー」
「ラブレター?」
「そ、士郎との噂が広まってからは来なくなったから楽でいいと思ってたんだけどね。
まだ見せ付け方が足りなかったかしら」
おいおい、俺をダシに使うな。
それにしてもラブレターなんて初めて見た。
やっぱり遠坂ってもてるんだな。
「……、遠坂。
お前ラブレターとかよく貰うのか?」
「そりゃまぁね。以前は貰わない日はない位だったわよ……って士郎もしかして妬いてるのぉ?」
し、しまった。
聞いてはいけない事を聞いてしまった。
「別に妬いてなんかいないさ。
ただ、遠坂がそのラブレターをどうするのかなって思ってさ」
「ふふーんっ。安心しなさい。
別にどうもしないわ。ちゃんと断るしね。
私のことより、士郎はどうなのよ?」
「え?」
「ラブレターとか貰った事あるの?」
うわっ、コイツ絶対知ってて聞いてやがる。
「別にラブレターの一通や二通くらい……」
「一通や二通くらい……?」
「貰った事ないけどさ」
「うん知ってた」
「じゃあ聞くなっ!」
「いいじゃない。士郎の良さはわたしが一番知ってるし。
他の女の子にはわからないだけよ。ほら気にしない気にしない」
バンバンと俺の背を叩く遠坂はなんだか嬉しそうだ。
俺はなんだか負け犬の気分だけど……男として。
そんなことを考えながら下駄箱を開けると、ハラリと先ほどと同じように白い物体が揺れ落ちた。
「お、オォーっ!?」
思わず奇声を上げる俺。
「え、エェーっ!?」
思わず叫び声を上げる遠坂。
「なんでーっ? なんで士郎に手紙なんて来るのよっ、 信じられない!」
おい、何気にかなり失礼なこと言ってるぞ、遠坂よ。
遠坂は地面に落ちた手紙をすばやく拾い上げ、何の躊躇もなく封を破り中身を読み始めた。
おい、それは一応俺宛に届いた手紙だぞ、遠坂よ。
まぁそんな文句はコイツに言っても無意味なのは分かっているので、俺は遠坂と共に手紙に目を通した。
瞬間―――。
「ぷっ!」
「なっ!」
「ぷーっくっくっ! あーっはっはっはっ!」
遠坂はいきなり腹を抱えて笑い出した。
「おか、おか、おかしいと思ったのよねぇ。士郎にラブレターなんてっ、ははっ!」
「うるさい」
俺だっておかしいと思った。
今まで一度もラブレターなんて貰った事なかったのだから。
しかも俺と遠坂の仲は学校中に知れ渡っている。学校一の美人で完璧超人の遠坂に挑戦状を叩きつけるヤツなんているはずもない。
「それ、そ、それにしても今時珍しいわよね〜。くくくっ」
確かに珍しい。珍しいけど。
「遠坂、お前笑いすぎ」
俺は床に落ちたラブレターを拾い上げた。
そこには「果たし状 4時に体育館裏で待つ」と書かれていた。
「今時果し状だもん、アンタよっぽど恨まれる事したんじゃないの?」
ようやく笑いが収まってきた遠坂は、笑いすぎて涙が溢れた目をこすりながら聞いてきた。
「あー、1週間分ぐらい笑ったわ。で、どうするの?」
「どうするって……行くさ。正々堂々と果たし状を叩きつけられたんだ」
「罠かもしれないわよ」
「だが無視するわけにもいかないだろ。大丈夫、俺は負けないから」
やれやれと言った感じにため息をつき、遠坂は靴を履き俺の前に立った。
「しょうがないわね。今日は買い物はパスね。
チャッチャと終わらせてまっすぐ家に帰りましょ」
「別にお前は新都に向かってもいいんだぞ。呼び出されてるのは俺だけだし」
俺は正直に思った事を言った。
うん、元々遠坂は新都に行くつもりだったのなら遠慮なんかする必要はないよな。
「アンタね……私一人で行っても何の意味もないでしょ! このニブチン!」
「……ニブチン?
それはともかく、俺一人で行ったほうがいいと思うんだが?」
十中八九、遠坂がらみの恨みが原因なのは間違いない。
遠坂に限って連れて行って危険、ということはないのだが、下手に相手を刺激するのもどうかと思う。
「いいからいいから。
万が一、敵が魔術師だったらアナタ一人じゃ苦戦するでしょ。
一般人だったら士郎に任せるしね」
やれやれ、今度は俺の方がため息を付き、一足早く玄関を抜けた遠坂を追いかけた。