花見酒(中編)
「さんせーい。お酒飲んじゃおうかなー」
「お花見ですか。私、初めてです」
5人での夕食。もちろん二人とも俺の提案を喜んでくれた。
「ちなみに、藤ねえだけ飲酒禁止。
そのかわりに飲み物を大量に仕入れてきてくれ。
桜は明日の朝、俺と一緒に弁当を作ってくれないか。
ほら、何せこの面子だしさ。
一人だと辛いんだよ、いろいろと」
そういってセイバーと藤ねえを見やる。
本当は桜も仲間なのだが、今の状況では機嫌を損ねるわけにはいかないのだ。
「士郎ー、お酒無しってどういうことよー、しかも私だけ」
―――黙殺
「わかりました、先輩。
明日の朝は早起きして、二人で一緒にお弁当作りましょう」
『二人』のところをやけに強調した桜は、えっへんと胸を張って遠坂に目線を向ける。
「桜、今日もやけに元気がいいじゃない。
姉さん、嬉しいわ。桜が元気になって」
にこやかに笑う遠坂。
「いえいえ、姉さんこそいつもスリムでお綺麗で、妹の私としても鼻が高いです。
でも、あんまり油断してると大事なものを奪われちゃうかもしれませんよ・・・私とかに」
こちらもにこやかに笑う桜。
いつもの桜よりちょっとだけ笑顔が黒いような気もするが、たぶん気のせいだろう。
「士郎ー、お酒無しってどういうことよー、しかも私だけ」
―――黙殺
「あらご忠告ありがとう、桜。
でも心配してもらって悪いんだけど、わたしがそんなミスを犯すことはないから心配は無用よ。
わたしからも姉として一つ忠告しておくけど、貴女、少しはウエストを気にした方がいいんじゃない。
いつまでも胸にばかり栄養が行くとは限らないんだから」
ふふんっ、と不適に笑う遠坂。
それに対して、ほほほ、とにこやかに笑みを見せる桜。
最近の二人はとても仲がいい。
どこから見ても仲良し姉妹そのものだ。
「うーん、あの二人姉妹になってから仲良くなったよな。
あんなふうに二人して楽しそうに笑う事なんてなかったもんな。
―――な、セイバー」
「シロウ、あなたの脳みそは大丈夫ですか?
私は時々あなたの思考についていけなくなります」
はぁー、とあからさまなため息をつくセイバー。
む、何を言ってるかはわからないけど、馬鹿にされたのは分かるぞ。
「むむ、セイバー、それってどういう意
「おねえちゃんの話をききな、っさーーーーーい」
雷鳴とどろくタイガーの声。
瞬時にタイガー化した藤ねえは、俺の鼓膜を突き破るかのような声を上げた。
「ちょっと士郎、どうしちゃったのよ。
なんでおねえちゃんのコト無視するの。
お酒無しってどういうことよー、しかも私だけ」
ぴ、ぴ、ぴ、とご飯粒を俺に向けて飛ばすタイガー。
むむ、ちゃぶ台返しをやらなくなっただけ成長したのか。
それともただ単に鯖の味噌煮が絶品だったからか。
ここでちゃぶ台返しを敢行した場合、セイバーに一刀両断されることは間違いあるまい。
「ご飯を飛ばすな!
わわ、大根もダメ!
藤ねえ、食事時は静かにしろよなー。
慣れてる俺らはいいけど、ご近所中に響き渡ったぞ、今の大声」
「だーかーらー、何で私だけお酒がダメなのよー。
士郎たちなんて未成年なんだから、お酒なんてダメでしょ。
私はちゃあんとお酒が飲める年だから問題ないのっ!」
ハフハフと鼻息も荒く抗議を続ける藤ねえ。
「だから二十歳とかそうじゃないとかの問題じゃなくて。
『藤ねえ』は飲んじゃダメなの!
それに俺達だって飲まないぞ、酒なんて。
酒を飲むのはセイバーだけだ。
セイバーが酒が好きだって言うから、今回酒を持ってくんだ。
セイバーはああ見えても藤ねえと同い年なんだから」
・
・
・
「ええーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
「うそーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
一瞬の静寂後、響き渡る二人の声。
藤ねえはともかく桜がこんな声を出すなんて驚きだ。
「そういえばそうだったわね。
セイバーって実年齢は25歳なのよね。外見はともかく」
そうそう、てな感じで、遠坂が付け足す。
「本当だぞ、な、セイバー」
事実確認をセイバーに求める。
「確かに私の年齢は実際には25歳に相当しますが、
シ、シロウ!私は別に酒を飲みたいなどとは言っていません」
「ん?なんでさ。
さっき『王として酒を嗜む事は必要です』って言ってただろ。
ここに来てからずっと酒なんて飲んでなかったんだし、俺達に遠慮しないでセイバーは飲んでもいいんだぞ」
そうそう、セイバーには好きなことをやってもらいたい。
俺達がいるからって我慢ばっかりしてるのはわかってるんだ。
にこやかにセイバーの事を考える。
「シ、シロウッ!私は別に我慢しているわけでは・・・
リン〜。何とかしてください」
なんでセイバーが慌ててるかわからないが、セイバーと遠坂でひそひそ話が始まった。
「イギリスのお酒って・・・
「アルコール濃度が・・・
そして数分の後、二人揃ってこちらを向いた。
ニヤリ
ゾクゾクゾク―――
二人揃ってにこやかに笑った。
にこやかなのになんで背筋に寒気が―――!?
「はい、シロウ。その申し出、受けて立ちましょう。
アーサー王の名にかけて、酒などに屈しぬことを誓います。
さあ、明日は勝利の宴といこうではありませんか」
どこから持ち出したのか、なぜか竹刀を手に持ち、ピシッと俺に向けてそんな事を言うセイバー。
おい、何ゆえ俺に竹刀を向けるんだ?セイバー。
「へーーそうなんだ、セイバーちゃん。ホントに25歳だったんだ。
おねえちゃんびっくりだよぅ。
でもそういえば大人びてるし、あの剣技はそうでもなきゃ身に付かないし、
見た目以外は大人なんだー」
「藤ねえは見た目だけ大人だけどな」
ボソッと言ってみる。
「じゃあ、明日は私と一緒にお酒飲もうよ、ね、セイバーちゃん」
「はい、タイガ。私でよろしければご一緒します」
「だから、藤ねえはダメだって言っただろ。
―――っておい、人の話しを聴けっ!」
・・・
・・
・
「姉さん、セイバーさんってお姉さんだったんですね……」
「桜? まあね。いろいろあって見た目は私達と同じ年なんだけどね」
「いいなぁ、あんなに若く見えるなんて。
それにあれほどの美人だし、慎み深い性格だし。
どう見ても男の人にもてそうですよね。
・・・姉さんはセイバーさんと先輩のことを心配してないんですか?」
「そ、そうね。心配してないと言えば嘘になるけど、
でも、士郎はそういうことできないヤツだから大丈夫よ―――セイバーがその気にならなければ」
「姉さん。これ以上ライバルが増えるのは嫌です、私」
「それは私も一緒よ。とりあえず手を組んでおきましょうか、明日まで」
「はい、そうしましょう。姉さんには負けませんけど、セイバーさんには負けちゃいそうですから」
「ふんっ、桜も言うようになったわね。私だって負けないんだから」
「「ふふふっ」」
4人の女性の思惑を載せ、春の夜更けは過ぎていくのでした・・・