春に咲いた紫陽花の華




「はっ!」


春の道場にこだまする掛け声ひとつ。
目の前のセイバーの隙に向けて、気合と共に竹刀を打ち下ろす。


「甘い―――」


セイバーの鼻先をかすめるように竹刀がすり抜けた。
俺の剣筋を完全に見切っているのかセイバーは余裕十分、
その流れのまま体勢の崩れた俺に追い討ちをかけてくる。

しかし、俺にとってはセイバーの回避も攻撃も全ては読み通りだった。
瞬時に下段から竹刀を跳ね上げ、セイバーの攻撃を防ぐ。

竹の割れたような音が響き渡り、両者の竹刀が弾けとんだ。
セイバーにすると完全に予想外の出来事。

「なっ?」

攻守逆転。
驚くセイバーを尻目に、俺は裂帛の気合を籠めて切り払う。
狙うはがら空きのセイバーの小手。


「もらった!」

入った、と思った。
初めてセイバーから一本取れると、喜々として放ったんだけど……
やっぱりセイバーは俺の思惑のちょっとだけ上を行っていたみたいだ。

なんと、俺の剣が当たる瞬間、セイバーは風に吹かれたように視界から消え失せていたのだ。


「……シロウ」


次の瞬間、俺の後ろから聞こえてきたセイバーの声に、今度は俺が驚く番だ。
鼻先に突きつけられた竹刀に負けを認め、万歳のポーズを取る。

「―――まいった。俺の完敗だ。今のを避けられたんじゃどうしようもない」


「…………」


「それにしてもいつの間に後ろに?ぜんぜん見えなかったぞ」


はあ、とため息をつき、道場の時計を覗き見る。
時刻は12時10分前。いつものお昼に後10分程あるが、稽古としてはちょうど切りがいい。


「セイバー、ちょうどいいからこの辺で……ん?
どうしたんだ、ボーっとして?」

「い、いえ、シロウ。なんでもありません。
少し呆けてしまいました、申し訳ありません」

慌てて顔を伏せるセイバーに、ピンッときた。

・ちょっと挙動不審なセイバー。
・時刻は十二時ちょっと前。
・今日の朝食はいつもより少なめだった
―――導き出される答えは、これしかないっ!


「ははーん、そうか、もうすぐ12時だもんなー。
はしたないぞー
、女の子なのに」

遠坂ばりの邪悪スマイルで、セイバーをいじめてみる、こう、ニヤニヤって感じで。

「な、な、何を言っているのですかっ、シロウ!
私は別に、お腹が鳴りそうなどとは一言も言っていませんっ。
そのような考えは、キチンと改めてもらわなければ困る!
大体今の笑みはなんですか。まるでリン並みの邪悪さが見え隠れしていましたっ」

がーーっと、一息に反論するセイバー。
その顔が赤いのはお約束。
うんうん♪やっぱりこうなるよな。
想像通りの返答で、俺は嬉しいよ、セイバー。

「あれー、セイバーさん、お腹が鳴りそうなんですかぁ?
俺は、もうすぐ12時だー、と。女の子なのにー、しか言ってないぞ」

「なっ!」

セイバーは、
ボンッと顔を真っ赤にして、「あ、あ」と言うのみである。
セイバーは隙が無いように見えて、実は不意打ちに弱い。
こうしてたまにセイバーをからかうのも俺の日課の一つなのだ。

とはいえ……これ以上の深追いはきっと良くない。
セイバーはいじめ過ぎると、きっちり倍返しでお返しをくれる律儀なヤツなのだ。
人間引き際が大切なのだよ、うむ。

しかしそこにタイミングが良いのか悪いのか、なんとも可愛らしい音が響き渡った。


「くぅ〜〜〜♪」

その……道場全体に……しかも満遍なく。
静寂に包まれた道場、その中心で顔を赤と青に染める俺たち。


げげっ、まずいっ。

なんともピンポイントなタイミングに、俺にはこの後の展開が読めてしまった。


―――フ、フルアーマーダブルセイバーが起動してしまうっ!

鎧に竹刀だぞっ、手加減無しだぞっ、やばい、やばいぞ。衛宮士郎、ライブでだいぴーんちっ。
プルプル震える真っ赤な顔のセイバーを置いて、俺の思考は彼方へと飛ぶ。
打開策を見出すために、俺の頭はフル回転中を始めた。

そしてこの場を収めるべく俺のピンク色の脳細胞が導き出した答え。
―――ここは懐柔策しかないっ!


「セ、セイバー? 今日はさ、お肉屋さんの特売日なんだ。
牛サーロイン肉がすっごく安いの。
セイバーにいつもお世話になってるお礼に、サーロインステーキなんかご馳走しようかなー、なんて」

セイバーは俯いていて顔が見えない。
しかし未だプルプルと震える肩がその怒りを物語っている。

―――くっ、ダメか!

ちょっとセイバーをからかっただけなのに、「お昼ご飯までボコボコの刑(俺命名)」を味わってしまう宿命なんだろうか……。
いや、諦めるなっ。ここで負けを認めたら俺には正義の味方を目指す資格なんかないっ。


「セ、セイバーさん?
あのさ、サーロインが嫌だったらフィレステーキでも善処しますけど……」


「……♪ それは本当ですか、シロウ?」


花の咲くような笑顔で顔を上げたセイバーを見て、俺は全てを理解した。
なんだ、葛藤していたのか……

とはいえ当面の危機からは脱せられたようだ。
俺は最後まで諦めなかった自分と、最大の功労者に賛辞を送る。

―――あぁ、お肉屋さん。今日が特売日でありがとー。
さらに、コノ隙ノガスベカラズーって感じに押し続ける。

「ああ!もちろんだとも!!
普段お世話になってるセイバーのために、今すぐ買ってくるよ。それも一番美味しいやつ。
ソースはオニオンを漬け込んだ秘伝のステーキソースでさっぱりと、
ホクホクポテトとさっくりニンジンを付け合せて完成さっ!」」

「あぁ♪それは楽しみです、シロウ♪
シロウが作るのなら、きっと今まで食べたどのステーキよりも美味しいのでしょう♪
そうですか……オニオンをソースに使うとは、これまた楽しみですっ」

見る間に上機嫌になるセイバー。
食事につられる女の子もどうかと思ったが、もちろん内緒である。

「よし、じゃあ肉を買ってくるから、セイバーは居間で待っていてくれ」

自転車をかっ飛ばして、サラッと買ってこよう。
ここでの出費はちょっと痛いけど、セイバーが喜んでくれるならむしろ嬉しい。


そこでハタッと気づいてしまった。

むむ、もしかしてヤツの分も買ってこなきゃならないのか?

藤ねえと桜は朝から部活に行っている。
もうすぐ新入生が入ってくるので、弓道部にとっても正念場なのだ。
残るは一人……


「あら、衛宮くん。今日のお昼はステーキなんだあ♪
いい時間に着いたわ、わ・た・し」

道場の入り口で、こちらを見ながらにっこりと微笑むあかいあくま。

あぁ……まあ、来るよな……当然。
1時からの約束なのに、当然のように12時前に来るあたり抜け目がない。
しかも、「ヒレよりサーロインの方が好きなのよね〜」とかなんとか言ってるし。

「前から思ってたんだが。おまえ、わりと目ざといよな……」

「まあね。これっくらいは当然でしょ?」

ふふん、って感じに胸を張る遠坂凛ことあかいあくま。
なんで自信満々なのさ。

「まあ、遠坂にもお世話になってるから、たまにはいいさ。
んじゃ買って来るから、二人でお茶でも飲んでてくれ。
セイバーはヒレで、遠坂はサーロインでいいんだな?」

「はい、シロウ。私としては、柔らかなフィレステーキに敵うモノはありません」
「私は断然脂身たっぷりのサーロイン、特選牛でよろしくね♪」

「わかったわかった。じゃ、行ってくるから」

「あっ!ちょっと待って、士郎」

外に飛び出そうとした瞬間、遠坂に首ねっこを押さえられた。

「ぐぇーーー。ちょ、どうしたんだよ遠坂。急いで買いに行かないとセイバーが……」

「むっ、セイバーが何よっ。
時間はとらせないから我慢しなさい。
単刀直入に聞くけど
―――士郎、今の動き、何?」

今の……動き……?
遠坂は今の立会いの事を言っているのだろうか?

「遠坂、いつからここに居たんだ。
セイバーと打ち合ってるところを見てたのか?」

セイバーの剣に集中してたから気づかなかったのか。遠坂はどうも結構前から入り口に立っていたらしい。

「はっ! ってとこからよ。
士郎が竹刀を打ち下ろした時に道場に着いたんだけど
―――あの時の動き、はっきり言って尋常じゃなかったわ」

キッと俺を見る遠坂。
その目には多少の殺気が感じられる。
いや、殺気と言うより敵意かな。まるで敵を見るような目で俺を見ている。
やれやれ、自分のわからない事だと、すぐ敵意を燃やすんだな、コイツは。

「貴方、セイバーの動きを予測したでしょ。
ここで見ていて解ったもの。読めてなければアノ剣は避けられないわ。
それって予知じゃないの?そんな力が貴方にあるなんて訊いてない」

がーーーっと言い切って、不機嫌そうにそっぽを向く遠坂。
うむ、相変わらずいい感じに自己完結してるみたいだな。

そんな事を考えながらも、俺の意識は今の遠坂の言及に飛んだ。

予知……未来予知のことか。
数瞬後の未来を見通す力を、魔術の世界では予知と呼ぶ。
予知能力とは、
例えば、自らの未来を予測し、
例えば、敵の剣筋を見通すことができる。

戦闘において絶大な力を発揮し、
勝利への道を手繰り寄せる、そのスキル。
セイバーの直感は、既に未来予知の域に達していると言うが……

「―――無いぞ。そんな力が俺に有るわけないだろ。
今のは、ただ毎日セイバーと打ち合ってるから、セイバーの動きがなんとなくわかっただけだ」

「ちょっと、だからそれがどういう意味かって聞いてるのっ」

もっと詳しく答えなさいよね、なんて言いながら、遠坂は俺の鼻先に指を突きつける。

「わかった、詳しく説明する。
でも時間が時間だから昼飯の後でいいだろ?セイバーもお腹すかせてるだろうし」

俺たちは、呆然と立ち尽くしているセイバーの方を向く。
そう、セイバーのお腹は限界ギリギリの筈なのだ、間違いなく。

「な、セイバー。
―――あれ?どうした。呆けたような顔して」


「え、あ、申し訳ありません。
私ならまだ大丈夫です。その……実は私も聞いてみたい。
先ほどの私の剣は必勝の剣でした、必ず決まるはずの剣が何故弾かれたのか」

静かながらも剣士の気迫をまとったセイバーは、凛として……美しかった。
セイバーは見た目は俺と同じくらいの女の子なのだが、実際は数々の戦地を駆け抜けてきた歴戦の騎士なのだ。
こういう面持ちを見せられると、今更ながら思い知らされる事も多い。



「くぅ〜〜〜♪」


「あ、二回目」



そんなセイバーのお腹から、くぅくぅ鳴るのもまた風情っていうか、なんていうか……ふぅ。
俺と遠坂に一斉に顔を覗き見られて、またまた真っ赤になるセイバー。
さっきまでの清水のような美しさは、年相応の女の子の可愛さへと変わっていた。
真っ赤になって照れるセイバーを見て、これもまたセイバーの一面だよな、なんて微笑ましくも頷いてしまう。

「はは、やっぱり、先に昼食にしよう。
ひとっ走り買ってくるから話はその後でいいだろ。
別にそんなことで逃げやしないし」


「はぁ……わかったわ。
ここまでセイバーにくぅくぅ言われちゃあね。
このままじゃ私が悪人みたいだし」

「も、申し訳ありません……」

所在なさげに顔を下げるセイバー。
うう、可愛すぎるぞセイバー。待っていろ、お昼は極上のステーキを食わしてやるからな。

気合を入れて、自転車一号出動!
ちなみに26段ギアに改造済み。これで坂道も怖くないゼ!
目指すは商店街、お肉屋さんだー!


さあ、最高のステーキってヤツを見せてやるぞー。
春の陽気の中、俺は大急ぎで商店街に向かった。




超特急の15分で買い物を終え、キッチンで調理にかかるシェフこと俺。
居間にはそれぞれお茶と紅茶を飲む遠坂とセイバー。

「さっきの話は後でな。
最高のステーキを作るためには集中が必要なんだから」

むんっ、と気合を入れてエプロンを着ける俺。
ちなみに買ってきたお肉は、サーロイン、ヒレ、ロースをそれぞれ一枚ずつだ。
言うまでも無く、遠坂、セイバー、俺、の肉。
さらに言うと値段もこの順だったりする、悲しいけど家計を預かる身としてはしょーがないのだ。
ロースだって巧いんだぞぅ、くそ。

「二人とも、焼き加減はどうする?」

「私は、これでもかってくらいのレアで焼いてくれる?
血の滴るようなステーキって最高よね〜」

まあ、あくまだから血が好きなのも当然か。とか不穏なことを思ってみる。もちろん口に出したら俺の血が滴っちゃうけど。

「シロウにお任せします。おいしく焼いていただければ満足です。
まあ、シロウなら間違いはないと思いますが」

にこやかな笑顔に殺気を籠めるセイバー。
えっと、焼きをミスったら容赦しないぞーっ、の意味かな? 多分。

そんなセイバーのプレッシャーにも負けず、俺は気合を入れて調理場へ向かう。


ステーキの場合は焼き加減が全てだ。
最新の注意を払って、客の要望どおりに肉を焼く。
それが料理人のプライドってやつだ。
しかもその客がまた曲者。ここは一分たりとも隙は見せられない。

シーズニングソルトとペッパーを軽く肉にまぶして下味を付ける。
レアとミディアムの時間差を考えて、ヒレの方から焼きにかからなければならない。
ヒレは厚みもあるから、少し長めに焼かないとサーロインには追いつけないのだ。
10分ほどしてから遠坂のサーロインと俺のロースを焼き始める。
時間としてはピッタリだ。


15分ほどの孤独な戦いが終わり、見事完成。最高のステーキが今ここにある。
そして、付け合せにホクホクポテトと、さっくりニンジンをつけてパーフェクト。
やっぱりお高い食事は失敗するわけにはまいりません。
全国の主婦の皆さん、分かってくれますよねー。

もちろん皿を温める基本を忘れてはいけない。
細心の注意を払ってこそ、納得のいく料理が作れるというもの。

「ほら、遠坂がサーロインのレアで、セイバーがヒレのミディアム。
ヒレはミディアムが一番だと思う。あんまり焼きすぎると、せっかくの高級肉が固くなるしな」

中心に僅かに赤みを残す、ミディアムレアからミディアムに移る直前、肉の味を引き出す最高のポイント。
うん、珠玉の出来。

遠坂のサーロインはレアもレア、ベリーレアもいいところだ。
これくらいで遠坂の好みにピッタリのはず。

「あらっ……美味しい。
悔しいけど、やっぱりやるわねっ、士郎」

「素晴らしいです。私は今までこれほど美味しいステーキを食べた事はありません」

こくこくと頷きながら食べるセイバーはいつものことだが、今日はいつもよりも幸せそうだ。
それにしても、ヨーロッパって肉料理の本場なのにそれでいいのか!? しかもセイバー王様だし。

まあ、セイバーの事だ。民衆の事を考えて、自分だけ美味しい料理を食べるなんて考えもしなかったんだろうな。
そう考えるとコクコクと頷きながら、嬉しそうに食事をしているセイバーがとても誇らしく思え、心が優しい気分で満たされていく。

「うーん、ソースに玉ねぎをいれるってのもどうかと思ったけど、なかなか侮れないわ。
サーロインの油をオニオンの酸味がサッパリと中和してくれて食べやすくしてくれてる。
焼き加減も申し分ないけど、付けあわせのポテトとニンジンが安易といえば安易よね。
油の多い揚げ物よりも、和え物みたいな青物を添えた方が絶対美味しいのに……」

和んだ心をバッサリと切り開く遠坂のつっこみの数々。
お前は料理評論家かっ! 心の中でビシッとつっこんでみる。無論、口に出すなどという愚を冒しはしない……。


そうこうするうちに、今日の昼飯は大盛況の内に幕を閉じたのでしたー。
そりゃあね、いつもの食事の倍以上のお金がかかってるんだから、
これでまずかったら承知しませんよ、主に俺の財布とかが。

キッチンで皿を洗う俺を尻目に、昼飯の反省会を始める二人の食通。

「これなら、一週間に一回くらいはステーキにしてもいいわね」
おいおい、お前は鬼か。肉の値段知ってて敢えて言ってるだろ、あいつ。

「私は、毎日食べてもかまいません。本当に幸せでした……」
無理ーーーっ。毎日は無理です、セイバーさん。いくら幸せでも、無理ーーーーっ。

「ちょっと待った。セイバー、いくらなんでも毎日は無理よ」
おぉ、珍しい、遠坂がまともなコト言ってる、いいぞ、いけいけー我らが遠坂。

「毎日食べたらさすがに太るわ。スタイルの維持って本当に大変なんだから
だから、一週間に一度くらいで勘弁してあげなさい、ね」
もっと他に心配するところがあるんじゃないのかーーー?主に俺の財布とか。


それにしても、これじゃ洗い物に集中できやしない。
こうなったら集中力で聞こえてくる声をシャットアウトしよう。じゃぶじゃぶ。
おお!?居間の声が聞こえくなりましたよ、さすが俺の集中力……根本的には何の解決もしてないけどな。

やっとこさ洗い物を終えた俺に、真剣な顔をした二人からの視線が突き刺さる。
むむ、一週間に一回で勘弁してくれるんだろうか……

「ねえ、士郎。さっきの話だけど……」

ビクッ、

やはり恐れていた事が来たか……。
この家の財布を握る者として、断固として週一は譲れないラインだ。
それ以上のステーキは、既におうぼうだ、どうさいせいじだ、だんこはんたいしてやるー。

「一週間に一回だぞっ、それ以上は無理だ。これは絶対だ」

これは譲れないぞっ、と二人を睨みつける。

「はぁ? アンタ、何言ってるの。わたしの言ってるのはさっきの稽古のことよ」

む、稽古? 
そういえば後で説明するって言ったんだっけ。
俺にとっては、ステーキの方が重要だっただけにすっかり忘れてた。
ホッとした俺は、上機嫌で答える。


「ああ、そっちのコトか、そんなにたいした事じゃないぞ。
―――それでもいいなら、何でも聞いてくれ」

「そ、じゃあ私から。
あなたさっき、セイバーの動きがなんとなくわかったって言ったけど、
ソレこそが未来予知の力じゃないの?」

もう先ほどのステーキ評論家はここにはいなかった。
目の前の遠坂は真剣そのもの。

「だから、そうじゃないってさっきも言ったろ。
セイバーと毎日打ち合っているうちに、なんとなくセイバーの動きが読めただけだって」


「それはおかしい、シロウ。
いくら毎日稽古をしていても、動きを読みきるのは至難の業です。
それに、先ほどの稽古は私の思惑通りに進んでいた。
少なくとも大振りで体勢を崩していたシロウがあの剣を避けきる事は不可能です」


「やっぱりそうか、あの時の隙はセイバーの罠だったんだろ」

「ッ! ま、まさか、気づいていたのですか、シロウ」

げっ!なんて驚きのポーズを決めるセイバー。
むむ、そのポーズはかわいくないぞ。


「セイバーが誘ってるかもしれない、とは思っていた。
俺がセイバーのよそ見を狙えば、きっとセイバーは半歩下がって避ける。
そこで体勢を崩して誘えば、セイバーはその隙を必ず突いてくる。
攻めて来る箇所が分かれば後は弾き返すだけ……」


「なっ!」
「そんな」

二人同時に声を上げる。

「シロウは私の隙を見て、三手先まで読んでいたというのですか?
そ、それよりも、私はシロウの作った隙を狙わされていたとは…………っ」

なにやらセイバーは多大なショックを受けている様子。
俺の想像通りに動いてしまった事にプライドが傷ついたみたいだ。

「でも、結局セイバーにかわされただろ。
俺には背後に回ったセイバーの桁違いのスピードが全く見えなかった。
だったら、たとえ何手先まで読めても結局は俺の負けだったよ」

そうさ、落ち込むのはむしろ俺のほうだ。
なにしろ、近づいたと思ったセイバーの背中が遥か彼方に消え去ってしまったんだから。

「うーん、確かに士郎の言う通りかもしれないけど。
セイバー相手に三手先まで読めるなら、それはもう未来予知のレベルじゃないかしら。
士郎が読んだ通りにセイバーが動く確率なんてとんでもなく低かった筈でしょ?」

「そうですね、私の『直感』が働かなかったら間違いなく負けたのは私のほうでしょう。
つまりあの瞬間のシロウは私と同等の力量を発揮したと思っていいです」

セイバーの直感のスキル。
それこそが遠坂の言う未来予知に他ならない。
磨き上げられたセイバーの直感は、相手の動きの先を読み、剣筋を読み、勝利を読む。
それは聖杯戦争で何度も見せられてきた勝利のスキル。

「セイバーの直感って、ほとんど未来予知なのよね、確か」

「ええ、リンの言う未来予知と、私の直感はほぼ同位と見ても問題ない。
だからこそ、シロウに先を読まれる事は無いはずなのですが……」

「えーみーやーくーん、貴方、何か隠してるんじゃないかしらぁ?
わたし、隠し事されるのって、だいっっきらい、なのよねぇ」

優雅な微笑の中にも、氷のような戦慄が覗き見える。
でたー、遠坂の得意技、氷の微笑。―――俺命名、しかも今。

「わかった、わかったから。俺の方に指を向けるなっ。
いつ呪いが飛んでくるかわからないからな、お前の指からは。
拳銃の銃口と変わらないぞっ、ほんと」

ちょっと油断すると、ばきゅんばきゅん来るからな、呪いの弾が。
そんなに頻繁に撃たないわよー、なんて横を向いて拗ねる遠坂。

おいおい、お前はあの学校での鬼ごっこを忘れたのか、と心の中でつっこんでみる。もちろん口には出せない。

「俺はアーチャーはなんでアレほど強かったんだろう、ってずっと考えてたんだ。
アイツはランサーやセイバーと殆ど互角に戦ってた。
俺には視認さえ出来なかったランサーの突きや、セイバーの剣を防ぐテクニックは神業だった」

頭の奥底に大切に仕舞い込んであるサーヴァント同士の戦いを思い出す。
ランサーの稲妻のような突きを、サラリとかわすアーチャー。
セイバーの閃光のような剣を、双剣で弾き返すアーチャー。
そして、俺に向けて、必殺の剣を振るうアーチャー。
どれも目蓋に焼き付けてある俺の理想であったカタチ。

「アーチャーの飛び抜けた防御テクニックは洞察力、つまり眼力の賜物じゃないだろうか。
俺とアイツの差はきっと目の使い方が原因なんだ。
もともと俺の目は人並み外れてすごくいい。
しかも、魔力の補助があればそこら辺の望遠鏡にだって負けはしない」

「そっかー、士郎も目が良いんだ。
そりゃそうよね、アイツは未来の自分だもんね」

「ああ、目の良さを最大限に生かして、相手の動きを見切る。
人間の動きには全て予備動作があるだろう?
筋肉の微かな動き、目線、気配、クセ、一つ一つは小さくても数限りない。
それを見逃さない目の良さと、膨大な経験があればきっとアイツに追いつけると考えたんだ」

ハッ、と息を呑んで答えたのはセイバーだった。

「心眼……
シロウ、それは心眼と呼ばれるスキルです。
私の持つ『直感』と対極にあるとされている努力の結晶。
ただそれは……」

「そうよ、そんなの不可能だわ。
そんな高レベルの洞察力を身につけるには気が遠くなるほどの経験が必要なのよ。
士郎にはその経験が絶対的に不足してるもの」

「ああ、多分遠坂の言うとおりだ。
アイツはきっと俺には真似できない経験を死ぬほど積んできたんだろう。
でも、今の俺には理想の教科書と最高の師匠がいる」

セイバーの方を向いて、ハッキリと告げる。

「そうさ、アイツが見せてくれた自分の理想像と
アイツが羨むほどの最高の師匠がいるんだから、不可能なんてきっとない」

「そうか……今のシロウはアーチャーの何倍もの速さで階段を駆け上がってるようなものなのよね」

「ああ、だから今日の稽古はセイバーの動きを意識して見てたんだ。
そしたら頭の中のセイバーの動きと実際のセイバーが徐々に重なっていくのを感じた」

「でも、それってちょっとずるいわ。
アーチャーが何年もかけて得たモノを一足飛びに手に入れちゃうなんて……」

おい、お前は味方じゃなかったのか、遠坂。

「む、確かにちょっとズルイかも知れないけど、俺は強くなれるだけ強くなりたいんだ。
俺には果たしたい夢がある。
―――俺は二人を守れるくらいに強くなりたい」

聖杯戦争の時から守られてばかりだった俺。
今度は強くなって、二人を守るんだ。
―――この二人を失いたくないっ……この思いも間違いなんかじゃないんだから。

仲良く呆れ顔を並べる二人。
ふんっ、笑いたきゃ笑えばいい。たとえ今は笑い話でも、必ず現実にする。
これから一生涯をかけて成し遂げる夢なんだから。

そんな俺の決意表明に感ずるところがあったのか、遠坂は少しだけ赤い顔でもっと恥ずかしい事を言ってきた。

「そう……なにげに恥ずかしいことサラッと言うのね、士郎。
だったら私も恥ずかしいこと言ってあげる。
―――士郎を最高にハッピーにすることがわたしの夢なの。
いまさら嫌だって言ったって許してあげないんだから」

その頬はまるでトマトのように真っ赤、調子に乗って言い過ぎたー、とか後悔してるに違いない。
それでもコイツはこういうヤツなのだ。
意地っ張りで気が強くてわがままだけど、こういうところは最高に女の子らしい俺の大事なパートナー。

「シロウ、貴方たち二人を守るのは私の役目です。
私を守ると言われても、困ってしまいます」

「いいんだよ、セイバー。いつかの夢なんだから。
あぁ……そういえばセイバーには夢とか無いのか?
俺たちの行く末を見守るのはいいけど、それだけじゃつまんないだろ
俺に出来ることなら何でも協力するぞ」

「そうよ、セイバー。私だって貴女を大事に思ってるもの。
やりたい事があったら、何でも協力するわ」

遠坂と俺の望みは全く同じ。
―――セイバーに幸せになってもらいたい
まあ、セイバーにそうそう望みがあるとは思えないんだけど……

そんな俺の思惑を余所に、申し訳なさそうに話し始めるセイバー。


「実は、最近一つだけ……望みが出来ました」

「ほ、本当か! セイバーがそんな事を言うなんて初めてじゃないかっ」

俺が知る限り、現世に召喚されてからセイバーは望みなど持ったことは無い。
セイバーはもっと我がままになるべきだ、と常々俺は考えていたのだ。

「へぇ、私も聞きたいな。
セイバー、今までそんなこと一言も話さなかったもんね」

「はい、ですが、私の夢にはシロウとリンの協力が不可欠です」

俺たちを頼ってくれるなんて願ったり叶ったりだ。
それはもちろん遠坂も同じ思いに違いない。


「嬉しいわ、セイバー。わたしに出来ることなら何でも遠慮なく言ってちょうだい」

「俺だってセイバーのためなら何でもするぞっ」

セイバーの望みなんて予想もつかなかった。
それでも俺たちはセイバーの為に何でもしてやらなければならない。
だって、これからずっと俺たちは家族になるんだから。

「二人とも、二言はありませんね」

「ああ、男に二言は無いから言ってみてくれよ」

俺も遠坂も興味津々。
しかしセイバーの望みは俺たちの思惑の遥か上をいっていた。。


「私は――――――二人の子供を育ててみたい


ぶーーーーーっ!俺、緑茶ブー。

ごふっ、遠坂。 何とか吹き出さずに済んだ様子。


「ごほっ、かはっ、く、セ、セイば」

「こほっ、な、な、
なんですってーーーーーっ!


俺たち二人は緑茶にむせながらもセイバーに詰め寄る。

「はい、リンとシロウの子供に会いたい。そして育ててみたいのです」


えっと、それは確かに僕たちの協力が必要ですけど……

「そ、それは、いくらなんでも時期尚早じゃないのか、セイバー」

「なぜでしょうか?二人は恋人なのでしょう。
私はこれほど息の合ったパートナーを、今まで見たことが無い」

「でも……でもでもでもでも、私たち、まだ学生よっ。子供が出来たら色々と大変になるわ!」

ね、なんて俺の方に助けを求める遠坂。
アイコンタクトも慣れたものだ。

「そうだよ、俺たち、まだ17歳だしさ」

「いえ、私も今すぐと言っている訳ではありません。
それはさすがに無理というものでしょう、準備もありますし。
幸いにもあと一年でガッコウを卒業なのですから、タイミング的にも今が丁度いいでしょう。
二人の子供が、我が母国ブリテンで産声を上げるのなら最高です。
それに時期尚早と言いますが一般的には15歳で成人です。婚姻には遅いぐらいではないでしょうか」

つまり今のうちに仕込んでおけと言いたいのでしょうかセイバーさんは。
それに15歳で元服っていつの話ですか? 今の成人は20歳なんですけども……

「そうですね、出来れば男の子が良いと思います。
剣の指南は私にお任せください。必ず立派な騎士に育て上げてみせますので」

おいおい、セイバーはもうアッチに行っちゃったぞ。
帰ってこーい、セイバーーーー。

「ちょっと待って、セイバー。何でそんなに子供を欲しがるのか聞いていいかしら?」

徐々に落ち着いてきた遠坂から本音の質問。
うん、それは俺も聞いてみたいところ。

ちょっとだけ悲しそうな目をして、うつむき加減にセイバーは話し始めた。

「実は……私は騎士であり王であったため子育ての経験がないのです。
私は男として振舞っていましたので、子供を生むことは出来ませんでした。
そんな私にも不肖の息子がいました。
実の息子ではありませんでしたが、私が王でなく人であったなら、あのような不明を働かすようには育てなかったと信じたいのです」

ガツーンとハンマーで殴られたような衝撃が来た。
そうだ、こんな大事なことを忘れるとは……なんて迂闊っ。

モードラッド。
アーサー王は、息子の反乱によって最期を遂げている。
自らが産んだ子供でなくても、セイバーは今でも自らの不逞を攻めているんだ。

これはセイバーにとって間違いなく一番深い傷。
だって、自分の息子に裏切られるなんて……考えただけでも悲しすぎる。

何とかフォローしたいのだけれど、こんな時に限って頭は固まったように動かなかった。
今こそ気の利いたセリフの一つも言ってやらないといけないのに―――っ!



「そうねー。士郎の子供だったら、男の子でも女の子でも真っ直ぐな子供になるでしょうね。
しかも、セイバーが育てるのならなおさらだわ。
でも、私の子供でもあるんだし、魔術の才能もバッチリじゃないと許さないんだから……士郎を」

「―――っ!」

この場で言わなきゃならないことを、さも当然のごとくサラッと言ってくれた。
ああ、あくまのくせに、なんて嬉しいことを言えるんだ、お前は。
さすが俺が惚れただけのことはある。


「ああ! 遠坂の子供なら可愛くなるのは間違いないだろう。ほら子供の時の遠坂の写真みたいにさ。
そう思うと、俺は女の子の方がいいなー。
むむ、これって微妙に父親っぽい発言!?」

「私は絶対男の子の方がいいの!
剣術も魔術も万能の魔法剣士に育てるんだから。
剣術はセイバーに鍛えてもらって、魔術は私が直々に教えてあげるの」

む、問題発言そのいち。

「俺の役割は?」

「と〜ぜん専業主夫でしょ、へっぽこ」

そ、それはひどいですよ、遠坂さん。
むむむ……じんけんようごだ、ことばのぼうりょく反対ーー!

それを見て、クスクスと笑うセイバー。

「男の子でも女の子でも、シロウとリンの子供です。
最高の子供であることは私が保証します」

心からの笑顔を見せたセイバーは本当に綺麗だった。
慎み深い朗らかな微笑み―――きっとセイバーは声を上げて笑うなんてことはしないんだろう。
例えるなら、紫陽花。 遠坂はきっと薔薇だけど、セイバーには紫陽花こそが相応しい。

セイバーの笑顔を見ながら、俺も遠坂も自然と笑顔になっていく。
セイバーの笑顔にはそんな効果があるのだ。

そう……セイバーの満面の笑みを見るためなら、俺の子供の一人や二人、セイバーに任せっ切りにしても構いはしない。
セイバーと、もちろん遠坂の、こんな笑顔を守るために、俺はこれからも戦い続けていくのだから……





エピローグ

「……随分と楽しそうな話をしてるんですね、セ・ン・パ・イ♪」

ピキッ! 

その瞬間、空気が凍った。
最大密度で固められた、この部屋の空気はもはや氷と呼んでも過言ではなく
体感温度は少なくとも3度は下降している。


「―――っ、さ、さ、さ、さ、さ、さ、さ」

「”さ”がどうしたんですか、先輩。
ついこの前、姉さんと付き合い始めたと思ったら、もう子供ですか?
お二人とも随分と楽しそうで私も本当に嬉しいです♪
あら、先輩、もしかして震えてるんですか?」

背後に立つ桜は、殺気を隠そうともせずにこやかに微笑んでいる。

いやぁーーーー、桜さん、こわいーーーー。
ああ、平和の象徴であった筈の桜が黒くなってくよーーー。


今の桜に言葉は通じない。
この危機を乗り切るために俺はあらゆる可能性を模索する。
しかし、不幸にもさらに厄介なモノが降り注いでしまった。

「あれ、どうしたの?桜ちゃん。こんなところで立ち尽くして。
部屋に入らないの?」

部活が終わったのだろう。二人が揃って帰ってくるのはむしろ当然。
しかし、俺にとっては最悪のタイミングで、最凶の増援が現れた。

「ええ、なんでも先輩と遠坂先輩の子供がもうすぐ生まれるそうですなんです♪」

桜は体から黒いオーラを撒き散らしながら、事実と違うコトをごく冷静に述べた。

「は?さ、桜っ、それは…………っ!」

それは微妙に、いやかなり違うと思うのですが、桜さん。


「そんなのダメッたらダメーーーーーーーーーーーー!!」

0.5秒の最速記録で藤ねえハイパータイガー化。

「士郎、一体どうしちゃったのよ!
ついこの間、遠坂さんと付き合い始めたばっかりでしょーーーー!
それなのにもう子供なんて、そんなラブコメ、
ゆる・しま・せーーーーーーーん!

「先輩、不潔です。酷いです。女の敵です。ずっと信じてたのに……!」



一瞬の内に居間は地獄絵図と化した。
先ほどまでの三人の空間が春のピクニックだとすれば、今はまるで弾劾裁判の開始直前。
いや、これはむしろ魔女狩りか。今や異空間と化した我が家の居間を占拠する二人の大魔神。

「ちょ、ふ、藤ねえ、落ち着けって! さ、桜も、真実をしっかりと見なきゃダメだっ!」

俺も冤罪を受けて、いつまでも受身になっているわけにはいかない。
キチンと訳を話せば、二人だって鬼じゃない。きっとわかってくれる……といいな。

「と、とにかく話を聞いてくれ!
子供が生まれるなんて、只の誤解なんだってばっ。
三人で子供がいたらどうなるか、ちょっと話してただけなんだから!」

必死で説明をする俺。
なにせ、この裁判には俺の命がかかっている。

「―――っ、ほ、本当ですか、先輩?」

俺の必死の説明に、ちょっとだけ落ち着きを取り戻した桜。
よしっ、さすが我が家の理性、それでこそ可愛い後輩だ。

「あぁ、本当だとも。桜なら俺の事を信じてくれるだろう?」

真剣な瞳で、桜を射殺す。

「―――はいっ、先輩がそう言うなら信じます」

安らかに笑う桜の顔には、先ほどの黒い影はもう見えない。

よしっ、桜はオチタ。後は藤ねえだけだ。

「藤ねえも落ち着けって、ちょっとは話を聞いてくれよな。どう見たって冤罪だぞ」

ぶーっと頬を膨らませる藤ねえ。

「だってだってー、いきなり子供が生まれるなんて聞けば、誰だって正気も失うわよぅ。
むー、それにしても士郎。本当に本当?
―――本当に遠坂さんとソウイウコトしてないの?」

おねえちゃんに嘘ついてないの?藤ねえは俺の目を見て質問してきた。
藤ねえは俺が嘘をついているのか、昔からこうやって判断する。

だから、はっきりと自信満々に答えてやった。

ああ、俺と遠坂はそんなことは
――――――してな…………い……ような……
気もする

……してる。
子供は出来てないけど、ズッポリとしちゃってます、僕たち!?
大ぴーーーんち。こんな時に嘘のつけない性格がぁーーーーーーーー。

居間の空気が再び凍りつく。
俺の答えを完全にクロと判断した二人は、ゴゴゴゴゴゴッなんて擬音を出して俺に迫っている。

「がぉーーーーーーーーーーーーっ!」

うわぁ、タイガーが火を噴いた。

「せん、ぱ……ぃ…………!」

泣き崩れる桜。
うわっーーーー。それは反則ですヨ、桜さん。

おろおろする俺に向かって、背後からカカト落とし炸裂っ!

「こんのバカ士郎ーーーーっ、アンタのそのバカ正直なところ、
一回叩きなおしてやらなきゃ気がすまないわーーー!」


二人にヤッチャッタコトがばれたのが恥ずかしかったのだろうか。
顔を真っ赤にした遠坂が、俺の脳天に必殺の一撃をお見舞いしてくれた。

―――おい、お前は味方じゃなかったのか、遠坂よ……

崩れ落ちる俺の顔面に、藤ねえ、もとい、タイガーのちゃぶ台返しが炸裂する。

「うわ、襟元からつくねが、必要以上に加熱されたつくねがあーーー!?」

何ゆえ、まだ食事の準備もしてないのに机の上に鍋物が!?しかもつくね!?

「せんぱい……シンジテタノニ……」

うわ、桜。平和の象徴のお前が何ゆえそんなに邪悪スマイルをーーーーーー!!

「そんなのおねえちゃん、ゆる・しま・せーーーーーーーん!!」
「先輩の不潔!女たらし!鬼畜!外道!触手?」
「アンタのバカ正直さにはホトホト嫌気がさしたわっ!!」



うわーーーーっ、触手ってなにーーーー!?
うわーーーーっ、何ゆえ遠坂まで混ざってるのでしょうかーーーー!!
お前は被告人のひとりじゃないのかーーーーーー!!
なんで、俺だけーーーー???

哀れ衛宮士郎は、三人にズルズルと道場まで引きずられていった。
これから死すら生ぬるい冤罪裁判が彼を待っている―――。



三人の鬼が獲物を連れ去った後の居間には、一人たたずむ金砂の少女。
ピンと背筋を伸ばしたまま、ずずっ、とお茶を一口だけ飲む。
道場が戦場と化していることなど気にも留めず、にこっと一言。

「―――ふふっ、シロウとリンの子供、楽しみです♪」

アーサー王として戦い続けた少女。
戦い続けたその先に見つけた、小さな小さな幸せのユメ

その小さなユメを静かに待つその華は、本当にきらきらとした、紫陽花の華でありました。




後書き

04/04/21 修正完了

まず一言。
「昔の作品ってハズカシーーーーーー!」
一月ぶりに読み返してみると、当時の私はよくこのレベルで公開したな、と感じます。
これを書いた当時は渾身の力を込めたつもりだったのですが……

よく処女作は後で読み返すと死ぬほど恥ずかしいと言われますが、本当にその通りです。
もう一刻も早くこの世から抹殺したいぐらいです。
文章は稚拙、文法は未熟、内容は希薄。むむむ、本当に恥ずかしいです。

というわけで、修正前の「春に咲いた紫陽花の華」はサイトから抹消♪
皆さまも履歴から消しちゃってください、お願いですから。
あ、一応HDには保存しておきますよ。未熟とはいえ、記念すべき私の第一作ですもの。

というわけで思ったよりも修正に時間がかかりました。
その甲斐あってか、かなりスマートにまとめる事が出来たのではないでしょうか?

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